朝ドラ「ばけばけ」北川景子演じるタエの運命と没落士族の悲劇|史実とドラマの違いを徹底解説

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北川景子が演じるタエの運命と明治時代の厳しい現実

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』で北川景子さんが演じる雨清水タエは、松江藩家老の娘として生まれた高貴な女性です。第19話では夫の傳を亡くしたタエが、松江を去ることを決意する場面が描かれました。視聴者からは「お姫様に仕事とかできないだろうし大丈夫か」「松江離れて生きていけるのかな」といった心配の声が数多く寄せられていますの。

タエのモデルとなった小泉チエさんは、1837年3月に松江藩家老の塩見家の娘として誕生しました。武家の子女として高い教養を身に着けて育ちましたが、いわゆる「お姫様育ち」をしたため、生活能力は残念ながら低かったようです。14歳で小泉湊さんのもとに嫁いでからは、11人もの子供をもうけて幸せな日々を送っていました。

しかしながら、明治維新後の1886年以降、チエさんの人生は一変してしまいます。夫の湊さんが始めた機織りの会社の業績が傾き始め、次男が若くして亡くなり、長男が出奔し、湊さん自身もリウマチを患って1887年にこの世を去るなど、立て続けに不幸が襲いかかってきたのです。

ドラマでは19話の時点でタエはまだ雨清水家の屋敷に住んでいましたけれども、実際の小泉家は湊さんが存命中に屋敷を引き払わざるを得なくなりました。かつて家来たちが住んでいた長屋や親戚縁者の家に身を寄せることになったそうです。チエさんの実家である塩見家やそのほかの親戚の旧士族も軒並み没落していたため、頼るあてもない状況でした。

武家の娘としての気位も高かったチエさんは、家財を売り払ったのちは働くことをせず、最終的には物乞いをするようになってしまったと伝えられています。これは視聴者にとって非常にショッキングな史実ですわね。「働くなんてプライドが許さない。それくらいなら物乞いに零落れる方がマシ」という考え方だったのでしょうか。気位が高いのか低いのか、現代の私たちには理解しがたい選択です。

ただし、物語はここで終わりません。セツさんが松江の尋常中学校の英語教師をしていたラフカディオ・ハーンさんのもとで女中として働くようになり、その後夫婦となると状況は大きく変わりました。当時ハーンさんが教師として貰っていた年100円の給与は、県知事に次ぐ高給だったのです。セツさんはチエさんに仕送りをするようになり、彼女の生活は安定していきました。

チエさんは晩年大阪に移り住み、1912年1月に74歳でこの世を去りました。実の娘からの援助によって、最後は穏やかな日々を過ごせたことは、せめてもの救いだったと言えるでしょう。

ドラマの中で北川景子さんが演じるタエがどのような道を選ぶのか、視聴者の注目が集まっています。史実とは異なる展開を望む声も多く聞かれますわ。「朝ドラではそんな風に成らないで欲しいな、朝から憂鬱な気分に成りたくない」「あくまでもモデルで合って、史実に忠実に再現しなくても良いと思うの」といった意見が寄せられています。

明治維新という大きな時代の転換期に、かつての身分や教養だけでは生きていけなくなった人々の姿が、タエというキャラクターを通じて描かれているのです。北川景子さんの美しい佇まいと演技力が、この複雑な役柄に深みを与えていますわね。

没落士族の娘たちが直面した生活苦と武家のプライド

明治維新によって、日本の社会構造は根本から変わってしまいました。江戸時代まで支配階級だった武士たちは、一夜にして特権を失い、生活の糧を得る手段を失ってしまったのです。『ばけばけ』で描かれる没落士族の姿は、まさにこの時代の悲劇を象徴していますわ。

武士階級、特に上級武士の家に生まれた女性たちは、茶道や華道、和歌といった教養は身につけていましたが、実際に生計を立てるための技能はほとんど持っていませんでした。「男は稼ぎ、女は家を守る」が主流の考え方だった当時、旦那様を失うと本当に生きていくのが大変だったのです。ましてやお嬢様育ちの上に18歳を超えた娘がいるぐらいの歳の女性となれば、貰い手を見つけるのもなかなか難しかったでしょう。

視聴者のコメントにもありましたように、「朝鮮の両班ほどではないにしろ、日本の武士階級にも儒教・朱子学の悪い面(実学・労働の軽視)の影響がある」というのは、まさにその通りです。お金や労働は卑しいことだとされていたため、没落した後も働くことへの抵抗感が強かったのでしょう。

トキの養祖父である勘右衛門が「トキに働くなんて以ての外だ」と言っていたことからも、当時の武家の価値観がよく伝わってきますわね。手習に来た子供に対してさえ、そのような考えを持っていたのですから、自分自身が働くことなど考えられなかったのでしょう。

明治維新で成功したのは、ほとんどが下級武士でした。伊藤博文や山縣有朋に至っては、もとは武士ですらなかったのです。彼らは失うものがほとんどない階級だったからこそ、一か八かのことにも挑戦できたのでしょう。一方で家老の家柄ともなれば、家臣や下男、下女も何人かいて、作法やたしなみは充分身につけていましたが、肝心の生きる術は持っていなかったのです。

突然解雇されて失業保険も生活保護制度もない時代でした。預貯金などあろうはずもなく、プライドがあろうがなかろうが、土地を持たない勤め人だった武士階級は悲惨な状況に置かれました。視聴者が「西郷隆盛が西南戦争を起こしたくなるわけだ」とコメントしているのも、理解できますわね。

前作『あんぱん』に登場した登美子は、夫が亡くなってもどんどん次の相手を見つけて、なかなかいい生活をしていました。嵩の父の清以外には愛がなかったようで、かなり割り切っていたのでしょう。名門のお嬢様でも物乞いになってしまう可能性がある時代に、登美子の生き方は現実的で賢明だったと言えるかもしれません。

『あんぱん』の登美子さんの記憶が新しいだけに、「お茶やお花、礼儀作法の教授をするとか、その他お持ちであろう姫様の教養で何とかできそうなもの」と思う視聴者も多いようです。しかし実際には、「人前に出て自分の働きの代償にお金を受け取る」ということ自体が考えられないことだった、というところなのでしょう。

NHKの「ばけばけガイドブック」によれば、タエは廃屋で雨風を凌いだり物乞いをするほど落ちぶれるものの、生活が安定したトキの援助により、小さな家を借りて華道や茶道を教えて、わずかながら生計を立てることができたとのことです。「トキの恩返し」という形で、最終的には救われる展開が用意されているようですわ。

時代の変化についていけないとどうなるかという、お手本のような人生だったと言えるでしょう。実の娘が高給取りの旦那さんを捕まえなければ、完全に詰んでいた状況でした。やはり人生に最も必要ないのは余計なプライドなのかもしれません。ただし、それを捨てるのがなかなか難しいものであることも、私たちは理解する必要がありますわね。

髙石あかり演じるトキと銀二郎の切ないランデブーシーン

髙石あかりさんが演じる主人公トキと、寛一郎さんが演じる夫の銀二郎。第19話では、東京で再会した二人が束の間の幸せな時間を過ごす様子が描かれ、視聴者の心を揺さぶりました。このシーンは「ランデブー」という言葉とともに、SNSでトレンド入りするほどの反響を呼んだのです。

東京にやって来たトキは、仕事に出かける銀二郎におにぎりと思われる昼食の弁当を作って見送ります。銀二郎は錦織さんにもお弁当を渡すトキの姿を見て、一瞬「えっ」という表情を見せました。自分の分はあるのかと心配したのでしょう。そして「行って参ります」と言ってトキからお弁当を渡されたとき、銀二郎はめちゃくちゃ嬉しそうな表情を浮かべました。ホッとした様子が伝わってきて、視聴者からも「子供みたいな表情」「可愛かった」との声が寄せられていますわ。

その後、トキが都内で道に迷い、見知らぬ男に絡まれているところを、なぜか人力車の車夫の仕事をしている銀二郎が発見します。このアイスクリンの男は、見るからに不案内そうなトキによからぬことをしようとニヤニヤ機会をうかがっていて、わざと立ち止まってぶつかりにいったようでした。視聴者は「ちょっとやり合うのかと思ってヒヤヒヤした」と緊張したようです。

銀二郎に救われたトキは、そのまま人力車に乗せてもらい、東京の街を案内してもらうことになりました。茶店で一つの饅頭を分けて食べ、それから小さな神社で参拝する二人。風情のある風景も相まって、素敵な場面がたくさん描かれました。トキは「楽しいランデブー(逢引き)でございました」とにっこり笑い、銀二郎は「久しぶりのランデブーでしたね」と微笑みます。

見合いのときに一緒に怪談「松風」の舞台となった清光院を訪れた日以来のランデブーだったと話すトキに、銀二郎は「また行きましょう。ランデブーに」と約束しました。この約束の言葉が、視聴者の胸を締め付けます。二人が別れることを知っている私たちにとって、この幸せな時間はあまりにも切ないものでした。

SNSでは「別れちゃうの辛い」「離れないで」「このままでいい」「このまま2人で」「ずっとランデブーしてほしい」「このまま東京にいてくれ」「東京でつつましく暮らしていく話にしよう」「もう2人で東京に暮らそう」「このまま東京で2人で暮らせ」「2人で幸せになってほしい」といった声であふれました。「オープニング差しかえよう」「この2人でOP作り直して」という声まで上がっていますわ。

視聴者は「まさに朝ドラのかわいい夫婦という感じの二人」「銀次郎さんとだったら、別の形でも幸せにはなれたと思います」と語っています。「虎に翼・あんぱん・ばけばけが最近では好きな朝ドラですが、みんな最初の夫はとっても素敵」というコメントもあり、多くの朝ドラで最初の夫との幸せなシーンが印象的であることが分かりますわね。

ラストでは、トキが銀二郎に「私、銀二郎さんと…夫婦2人で東京に…」と言いかけます。しかし、怪談落語の呼び込みの男に声をかけられて遮られ、最後まで話せない展開となりました。『あさイチ』では華丸さんが「あれもなんか変なタイミング。言いそうで言えなかった。あれ言っていたら、ゲッツでしたけど、言わなかったので不ゲッツですね」と、周囲を笑いに包んだそうです。

トキが何を言おうとしていたのか、視聴者の間でも意見が分かれています。「松江に帰ろうと言いたかったんじゃないか」という意見もあれば、「東京で暮らそうと言うつもりだった」という見方もあります。言いたいことが言えなかったというもどかしい様子から、重要な決断を伝えようとしていたことは間違いありません。

銀二郎さんが素敵すぎるのが視聴者にとっては罪だと言われています。これからトキさんと離れるのがわかっているだけに、自分にも昼食の弁当を作ってくれたことを知りホッとする銀二郎さんが物哀しく感じられました。「お似合いで可愛らしい二人の場面から主題歌に移行されると、そこに登場するヘブンさんを見て複雑な気持ちになる」という視聴者の声が、多くの人の心情を代弁していますわね。

笑いあり涙ありのとてもいい回だったという評価が多く聞かれました。はにかんでいる二人が可愛く、幸せそうな様子に心温まりながらも、別れが近づいていることを知っている視聴者は、切ない気持ちで見守るしかありませんでした。

史実とドラマの違いから見える朝ドラ『ばけばけ』の魅力

『ばけばけ』は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と妻の小泉セツさんをモデルにした物語ですが、あくまでもフィクションとして制作されています。史実をそのまま描くのではなく、ドラマならではの脚色や創作が加えられることで、朝ドラとしての魅力が生まれているのです。

視聴者からは「史実どうのこうのでなく、ドラマはフィクションで楽しいのですよ。『史実』をそのまま朝ドラで描いたら、面白くない」という声が上がっています。トキたちの東京行きも、だからこそこのあとの物語展開が楽しみなわけです。史実では辛い状況だったとしても、「朝ドラではそんな風に成らないで欲しいな、朝から憂鬱な気分に成りたくない」という意見は、多くの視聴者の本音でしょう。

タエのモデルとなった小泉チエさんは、物乞いをするほど困窮しましたが、ドラマのタエには違う展開が用意されている可能性があります。「傳さまに作ったこともないのにお粥を炊いてあげようとしたり、チャレンジ精神は旺盛そう」という指摘があるように、ドラマのタエはモデルの実母とは違う生き方を選びそうな雰囲気が感じられますわ。

また、「移り住むのが大阪ならば銀二郎さんのモデルになった人が商売を始めた街。行き先を東京にして、そこで銀二郎さんと繋がるというなら、タエ様にも救いになるだろうし、銀二郎さん再登板にも期待が持てるかもしれない」という希望的な予想も出ています。ただし「それは、さすがにご都合展開すぎるか」とも付け加えられていますけれども、朝ドラならそういった展開も十分にあり得るでしょう。

勘右衛門については、当初「全然反省してない」と思われていましたが、実は息子夫婦とそれ以上の会話を断ち切るための「わしが鍛える」だったのではないかと解釈されています。トキが戻ってこないかもとなって「養子を」と口走ったのも、昔は年金や生活保護なんてないから、主人を亡くしたら子が頼りという時代背景を考えれば、仕方ないことだったのかもしれません。

勘右衛門がタエに今回の一件を伝えたシーンでは、「やはりタエの幸せを願って帰って来ない事も薄々感じて、東京に送り出したんだな」ということが明らかになりました。「鎧兜を売ってそこまでした勘右衛門なかなかのいい奴じゃん」という評価に変わったのです。武士ゆえの武骨な男ですが、雨清水家から頂いた大事な子でもあるトキの幸せを最後は優先したということでした。

錦織さんについても、第19話で新たな事実が明かされました。既婚者だったことよりもよっぽど驚くべきことに、体が弱く小学校しか卒業していないのに中学教師をしていたのです。今回は正式に資格を取るための試験だったのですね。全科目合格すれば、いずれは帝大卒業資格も得られて、校長先生にもなれるという凄い制度があったことが分かりました。

試験を受ける錦織さんの見送りには、松江の秀才と呼ばれる庄田さんも来ました。帝大生コンビの制服制帽がレトロでチャーミングで、セミの鳴く季節に詰め襟というのは、温暖化の現代では考えられませんが、カンカン帽が喜劇王バスター・キートンぽくて、なんか外食チェーンの店店先が似合いそうだという意見もありました。

視聴者は「今も昔も『やり直したい事情をかかえた人々』が、そんな顔は見せずに集まる場所」として東京を捉えています。錦織さんの「東京はやり直せる場所だ」というセリフは、地方から女の子を送り出す親たちが言う「東京ぁおっかねえとこだぁ」という警告とも重なります。アイスクリンの男は、まさにその東京の危険な側面を体現するような存在でしたわね。

北川景子さんの出番について、「史実どうのこうのでなく北川景子さんの出番が無くなるのはちと寂しい気がする」「池脇千鶴さんとの対比(劇中の容姿も含め)が得も言われぬ可笑しさを醸し出していたのに」という声もあります。「北川景子の物乞いは見たくない。そういう回があるのであればその回はパスする」という意見もあり、視聴者は美しい北川景子さんには幸せな展開を望んでいるようです。

小泉八雲の給与は年収1億円とも言われるほど高額でした。あまりに高い給与故にリストラ対象となりますが、松江や熊本位までは両家を支えられるだけの経済力があったのです。セツさんからの仕送りによって、チエさんの晩年は安定したものとなりました。

『ばけばけ』は史実をベースにしながらも、視聴者が朝から楽しく見られるように配慮された作品です。「だから、ドラマはフィクションで楽しいのですよ」という言葉が示すように、史実の厳しさをそのまま描くのではなく、希望や温かさを感じられる物語として仕上げられているところに、朝ドラとしての価値があるのでしょう。トキたちの東京行きも、このあとの物語展開が楽しみです。木俣冬さんが松野家を「怪談より怖い」と書いていましたが、怪談は結局、怖さが悲しさになるのだと言われています。束の間とわかっている幸せが果てしなくやりきれないけれど、それでも私たちは登場人物たちの幸せを願わずにはいられませんわね。

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