「あんぱん」第37話、戦死通知が変えた朝田家の運命~蘭子と豪の永遠の別れ~

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紙一枚の戦死通知がもたらした朝田家の悲劇

1939年(昭和14年)秋、朝田家に突如として悲劇が訪れました。

朝ドラ「あんぱん」第37話、穏やかな日常を送っていた朝田家に、一人の兵事係の男性が訪れたのです。「原豪さんの留守宅はこちらですね」という言葉に、作業中だった釜次(吉田鋼太郎)は「はい」と応え、立ち上がりました。

「この度はまことにご愁傷さまです」

たった一枚の紙切れ。しかしその紙には、朝田家の大切な家族である原豪(細田佳央太)の戦死が記されていました。紙を受け取った釜次は一瞬にして放心状態に。それでも何とか「ご苦労さまでございました」と言葉を絞り出し、一礼しました。

兵事係の男性が去った後、釜次は「豪よーーー!」と叫び、膝から崩れ落ちて慟哭しました。その声は家中に響き渡り、羽多子(江口のりこ)、くら(浅田美代子)、メイコ(原菜乃華)の表情も凍りつきました。

あの時、ヤムおじさんが言っていた言葉が現実となったのです。「兵隊は虫けら同然に殺されていく」「戦争なんていいやつから死んでいくんだからな」

豪の戦死通知は、ただ豪一人の死を告げるものではありません。朝田家の喪失感、蘭子の絶望、そしてこれから激化していく戦争の恐ろしさを示す象徴となりました。釜次の慟哭は、実の息子よりも息子らしい、すべてを教え込んできた愛弟子を失った深い悲しみの表れでした。

吉田鋼太郎さんの演技は圧巻で、兵事係の方に一瞬掴みかかろうとして止める仕草、その後の魂の叫びのような泣き声は視聴者の心をも打ち砕きました。「花子とアン」での「こげなもぉ~ん」という叫びを思い出させる一級品の演技だったと多くの視聴者が涙を誘われています。

そして、最も辛いのは、ちょうど郵便局から帰宅した蘭子(河合優実)。「おじいちゃん?」と声をかけた蘭子は、釜次の左手にある紙を見て、すべてを悟りました。出征前夜にようやく結ばれた豪との永訣——。蘭子の表情から色が失われ、呆然と立ち尽くすその姿は言葉以上に深い悲しみを表していました。

指折り数えながら豪の帰りを待っていた蘭子。「もんて来ます」と約束した豪。二人の未来は、一枚の紙によって無残に踏みにじられたのです。

朝から重い空気になりましたが、これも戦争という時代の現実。「批判覚悟で逃げずに戦争を描く」という中園ミホ脚本家の言葉が、想像以上に重みを持って視聴者の胸に刺さりました。

戦死の知らせが間違いであってほしいと願う声も多いですが、この時代に「誤報」は珍しく、人の命が紙切れのように消費されていく戦争の残酷さを浮き彫りにしています。

朝ドラ「あんぱん」は、これから太平洋戦争開戦前でこのような展開ですから、今後のストーリーを思うと相当な覚悟をして見る必要がありそうです。しかし、この辛い経験が、後に嵩がアンパンマンを生み出すきっかけとなる重要な要素でもあるのです。

のぶと若松次郎の初めてのお見合い、父との絆を感じる時間

朝田家に上品な婦人・若松節子(神野三鈴)が訪ねてきたのは、朝田のぶ(今田美桜)に思いがけない出会いをもたらすためでした。

節子の夫が朝田結太郎(加瀬亮)に”あるお願い”をしていたという言葉に、のぶの心はふと動きました。亡き父との繋がりを感じさせるその言葉は、のぶにとって何より響くものだったのでしょう。

後日、のぶは結太郎と面識があるという節子の息子・若松次郎(中島歩)とお見合いをすることになりました。羽多子(江口のりこ)は娘の晴れ姿を見るために着飾り、のぶ自身も緊張した面持ちでお見合いの席に臨みます。

若松次郎は船の機関士という職業柄、一年の大半を海の上で過ごすという男性でした。「令和のトシちゃんみたい」と視聴者から評されるほど誠実で穏やかな人柄が伝わってきます。

そして会話の中で、次郎の口から結太郎のソフト帽の話が飛び出します。「お父さんのソフト帽、よく覚えているよ」という何気ない一言に、のぶの顔はパッと明るくなりました。父親の思い出を共有できる喜びが、彼女の表情を柔らかくほころばせたのです。

また、のぶが始めた慰問袋作りが戦地の兵隊に大いに役立っていることを次郎から聞かされ、その取り組みを続ける意味を再確認するのぶの姿も印象的でした。

初めは「まだ結婚する気はない」と断りを入れていたのぶでしたが、父の友人の息子との会話を通して、どこか安心感を覚えたようです。次郎も同様に「一年のうち、ほとんど海の上のため結婚の必要性を感じない」と正直に話しました。お互いに結婚を急いでいないという共通点があったからこそ、かえって打ち解けることができたのかもしれません。

戦争もいつかは終わる——次郎が語る戦後の未来への希望的な言葉に、のぶはどこか父の面影を感じたのかもしれません。対照的に、嵩(北村匠海)は便箋を前にペンを握り締めながらも、なかなか手紙を書けずにいました。

お見合いシーンはほのぼのとした雰囲気に包まれ、視聴者もこの穏やかな時間に安心感を覚えました。だからこそ、その後の豪の戦死の知らせは、より一層強い衝撃として心に響いたのです。

「明からの暗」という視聴者の声もあるように、朝ドラ「あんぱん」は人生の喜びと悲しみを鮮やかなコントラストで描き出しています。若松次郎との出会いはのぶに新たな可能性を示す明るい光でしたが、同時に朝田家に暗い影が忍び寄っていたのです。

のぶと次郎の関係はこれからどのように発展していくのでしょうか。史実に基づくと、のぶは若松さんと結婚することになるのかもしれません。しかし、心の中には嵩への想いも残っているはず。複雑な感情を抱えながらも、のぶは自分の道を歩んでいくことでしょう。

朝ドラ「あんぱん」は、戦前から戦後までの激動の時代を背景に、人々の出会いと別れを丁寧に描いています。その中で、のぶと若松次郎のお見合いシーンは、戦争の暗い影が色濃くなる中での、つかの間の光明として視聴者の心に残りました。

絶句する蘭子、豪との約束と永訣の瞬間

郵便局からの帰り道、いつもと変わらない日常が待っていると思っていた蘭子(河合優実)。けれど、家に戻った彼女を待っていたのは、想像を絶する現実でした。

「おじいちゃん?」

心配そうに声をかける蘭子。しかし、膝から崩れ落ち慟哭する釜次(吉田鋼太郎)の姿に、何かが起きたことを悟ります。そして、釜次の左手に握られた一枚の紙——戦死通知を目にした瞬間、蘭子の表情から色が失われていきました。

蘭子と豪(細田佳央太)の関係は、朝ドラ「あんぱん」の中で最も純粋で切ない恋物語として視聴者の心を掴んできました。豪が出征する前夜、ようやく二人の想いは通じ合い、「もんて来ます」という約束の言葉を交わしたばかりだったのです。

蘭子は日々、カレンダーに印をつけ、豪の帰りを指折り数えて待っていました。「蘭子は豪が戻ってくるのを信じていたのに」と多くの視聴者が涙したように、彼女の純粋な想いと信頼は、戦争という残酷な現実の前に無残に打ち砕かれてしまったのです。

河合優実さんの演技は圧巻でした。言葉を発することなく、表情だけで蘭子の絶望と悲しみを表現したラストシーンは、多くの視聴者の心に深く刻まれました。「蘭子の表情…河合優実さん、凄い」という声が多く寄せられたように、彼女の静かな演技力が光る瞬間でした。

豪の戦死は、単なる一人の若者の死ではありません。それは蘭子の未来の喪失であり、朝田家の悲劇であり、そして戦争がもたらす理不尽さの象徴でもあります。蘭子が絶句する姿は、戦時中の多くの女性たちが体験した言葉にできない悲しみを代弁しているようでした。

「あんぱん」のストーリーは、これから太平洋戦争が本格化する時代に突入します。史実では、この時代に多くの若者たちが「お国のために」と戦地へ送り出され、多くの家族が蘭子と同じ悲しみを味わうことになります。朝田家の悲劇は、日本全体の悲劇の縮図として描かれているのです。

蘭子はこの先、どのような人生を歩んでいくのでしょうか。豪との思い出を胸に秘めたまま、生涯を独身で過ごすのか、それとも別の誰かと新たな人生を歩むのか。視聴者の間では「蘭子ちゃんにもいつか幸せを…」という願いの声も多く聞かれます。

視聴者からは「豪が戦死したという事よりも釜じいの芝居に泣かされた」「蘭子の気持ちを考えると、胸が張り裂けそう」などの声が上がりました。また、「自分が死ぬよりも辛い事って自分の子供の死以外にはないもんね」という言葉に象徴されるように、家族を失う痛みの深さに共感する声も多くありました。

朝ドラ「あんぱん」は、「逆転しない正義」を体現した「アンパンマン」を生み出すまでの愛と勇気の物語です。蘭子と豪の悲劇は、やなせたかしさんが後に「何があっても絶対に変わらない正義」を追求するきっかけとなる重要な要素かもしれません。

河合優実さんが演じる蘭子の静かな強さと深い悲しみは、これからも視聴者の心に響き続けることでしょう。彼女の「何も言わずに表現できる」演技力は、次回以降の展開でも注目されています。

便箋を前に手紙を書けない嵩、伝えられない想い

東京で暮らす柳井嵩(北村匠海)の姿も、第37話では印象的に描かれました。便箋を前にペンを握りしめるも、なかなか手紙を書くことができない嵩の姿には、多くの視聴者が胸を締め付けられる思いをしたことでしょう。

「拝啓、のぶちゃん。あの時はごめんなさい」

健太郎に全部聞かれてしまうほど、声に出しながら手紙を書こうとする嵩。しかし、言葉にしようとすればするほど、のぶへの気持ちは複雑に絡み合い、なかなかペンを走らせることができません。

のぶとのすれ違いから、どれだけの時間が経ったのでしょうか。嵩の心の中で、のぶへの想いはずっと変わらず存在し続けていたようです。それなのに、素直に気持ちを伝えられないもどかしさが、彼の表情から伝わってきました。

嵩とのぶの関係は、朝ドラ「あんぱん」の中心的なストーリーラインです。幼なじみから始まり、互いに惹かれ合いながらも、すれ違いを繰り返してきた二人。嵩がようやく手紙を書こうとしているその瞬間、皮肉にも、のぶは父親の知り合いの息子・若松次郎とお見合いをしていました。

北村匠海さんの繊細な演技は、言葉にならない感情を見事に表現しています。手紙を書きながらも、なかなか進まない様子や、言葉を選びながら悩む表情には、嵩の複雑な心情が滲み出ていました。

嵩はこの手紙をいつか出すのでしょうか。それとも、またしてもタイミングを逃してしまうのでしょうか。二人の関係がこれからどのように展開していくのか、視聴者は固唾を呑んで見守っています。

この手紙のシーンは、豪の戦死の知らせという衝撃的な展開の陰に隠れがちですが、実は非常に重要な意味を持っています。嵩もまた、戦時下の日本を生きる若者として、いつ徴兵されるかわからない状況の中で、自分の気持ちと向き合おうとしているのです。

「家族だからこそ感じる痛ましさ、張り裂ける想いを共有出来たシーン」という視聴者の声にあるように、嵩はこれから朝田家の悲劇を知ることになるでしょう。豪の戦死が嵩にどのような影響を与えるのか、彼の創作活動にどう反映されていくのかも見どころの一つです。

嵩のモデルとなったやなせたかしさんは、「戦前戦中と戦後で、正義の意味がまったく変わってしまった」という経験をし、「何があっても絶対に変わらない正義があるとすれば何なのか」を考え続けました。そして、たどり着いた答えが「アンパンマン」という作品のバックボーンになっているのです。

嵩が便箋を前に葛藤する姿は、彼がこれから経験する戦争の悲劇と、その後の創作活動を暗示しているようにも感じられます。手紙を書けない今の状況が、やがては「アンパンマン」という形で世界中の子どもたちに愛される作品に昇華されていくのです。

北村匠海さんの演技は、そんな嵩の複雑な内面を静かに、しかし力強く表現しています。彼の繊細な表情の変化や、手紙を書こうとする真摯な姿勢には、嵩という人物の誠実さと優しさが表れていました。

朝ドラ「あんぱん」は、戦争という時代の中で、人々がどのように生き、愛し、創造していったかを描いています。嵩の手紙のシーンは、その象徴的な一場面として、視聴者の心に残り続けることでしょう。

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